ABAを擁護しようと思う
研究関連
今日は,先週に粗くだけ精製しといたクルードを,精製しに学校に来ました。
ただ,TLCを見てみるに…こりゃぁ,精製できんなということで,精製は断念,廃棄しました。
というわけで,暇つぶしに論文読んだりしとりました。
…もう論文読むこと(読む環境)も無いんだな…と少し悲しくなります。
さて,未読の論文も消化して,久々に記事になるネタねーべかと,探していると,
そういえば昔,「アブシジン酸(ABA)が人体に有毒!」というネタがあったのを思い出したので,
今回はそのお話。
一度「アブシジン酸」を調べていただければ分かるかと思いますが,
筆者のブラウザ(Google chrome),検索エンジン(Google)環境では上から順に,
「アブシジン酸-wikipedia」
「現代病の根幹を成す、“アブシジン酸”の恐怖 - 糖尿病治療」
「玄米のアブシジン酸とは?フィチン酸とは?危険なの?」
「アブシジン酸応答機構 の解析 | 環境応答機構研究グループ」
「健康に良いはずの玄米食の落とし穴:日経ウーマンオンライン」
「アブシシン酸とは - コトバンク」
「「発芽毒」玄米や種物(チアシード)などを食べる時の注意点!」
「アブシジン酸の働き、そして毒性はあるのか? - saitodev.co」
「玄米の毒(アブシジン酸)を無毒化する方法」
「植物ホルモン」
と,ABA「俺が一体何をしたって言うんだ!!」といったラインナップです。
他の植物ホルモン(オーキシン,エチレン,ジベレリン,etc...)で調べてみると,
結果は学術的なものが多いのに対して,この仕打ちです。
渦中のABAが何故こんなトンデモなことになっているかといいますと,
玄米に含まれるABAが,「ミトコンドリアに対して毒性がある!」ということらしいです。
いろいろなサイトを見ていると,上記のことを言い始めたと思われるのは,
医学博士のN氏だそうです。
ただ,氏の発言を記した一次ソースを探し出すことが出来なかったので,
何故,上記の主張をなされたかは想像するしかありません。
どうも,主張の根拠には2007年にPNASに報告された論文の様です。
それが,これ
「Bruzzone S, Moreschi I, Usai C, Guida L, Damonte G, Salis A, Scarfi S, Millo E, Flora AD, Zocchi E: Abscisic acid is an endogenous cytoline in human granulocytes with cyclic ADP-ribose as second messenger: Proc Natl Acad Sci USA 2007, 104, 5759-5764.」
いろいろなサイトがこの論文を根拠に
「アブシジン酸が活性酸素を増大させミトコンドリアを傷つける」→「ミトコンドリア毒だ!」
という理論を展開しているみたいです。
まず,大前提として論文の筆者らは,「論文中でミトコンドリア毒」などという意味不明な単語は使用していません。
上記の論文のタイトルをコピペして,出てきた論文のAbstractを読めば大体内容は分かるかと思います。
(Abstractだけなら読めるよね・・・・?)
かいつまんでAbstractを訳すと
・ABAは高等植物における基本的な生理的応答(ストレスや種子休眠,気孔閉鎖等)に関与する植物ホルモンである。
・我々は,ABAが,Gタンパク質/受容体を起点としたシグナル伝達経路を介してカルシウムイオンの増加を引き起こすことにより,ヒト顆粒球のいくつかの活性(食作用,活性酸素種および一酸化窒素の産生)を誘引することを示した。
・この発見は,植物からヒトへのホルモンおよびシグナル伝達経路が保存されていることを示す興味深い一例であり,顆粒球活性化の分子メカニズムについての知見を提供し,新しい抗炎症薬の開発につながる。
といった感じです。
おそらくですが,カルシウムイオンの増加による活性酸素種の産生という点から,
上記のミトコンドリア毒という説が出てきたものと考えられます。
確かに,活性酸素種はその反応性ゆえ種々の器官にダメージを与えます。
ただ,ほとんどの試験で効果が確認された濃度が20 μMと非常に高濃度であることから,
この効果が,玄米に含まれている程度のABAで引き起こされるか甚だ疑問です。
実際に,茶碗一杯に含まれるABA量を計算してみましょう。
玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。
品種にもよりますがイネにおけるABA内生量は80 ng/g F.W.であるので
茶碗一杯のABA内生量は16 μgとなります。
ABAの分子量は264.3なので,茶碗中に含まれるABAは約60 nmolとなります。
人間の血液が成人男性60 kgで4.5 Lだとすると,体内のABA濃度は15 nMとなります。
※内生量のF.W.と炊飯した玄米量を結びつけるのは無理があるかなぁ…
かなり荒っぽく計算しても,摂取するABAはかなり低濃度であることが分かります。
また,ABAが蓄積されるといった知見もまだありませんし,
ABAはカルボキシ基を持つため水溶性が高く,体外に容易に排出されると予想されます。
そのため,体内で濃縮という可能性もかなり低いと考えられます。
以上の簡単な計算から分かるように,
「摂取したABAが活性酸素種を増加させ,ミトコンドリアを傷つける」といった可能性はかなり無理があるかと思います。
そもそも,ABAが活性酸素種を増加させるからミトコンドリア毒であるという仮説は,論理が何段階も飛躍しており,
まともな教育を受けた研究者ならかなり無理があると気づくかと思います。
まだまだ,この説については突っ込みどころがあるんですけども,今日はここまでにしておきます。
文字ばかりでなかなか見辛いな…。レイアウトに頭を使おうという反省でした。
ただ,TLCを見てみるに…こりゃぁ,精製できんなということで,精製は断念,廃棄しました。
というわけで,暇つぶしに論文読んだりしとりました。
…もう論文読むこと(読む環境)も無いんだな…と少し悲しくなります。
さて,未読の論文も消化して,久々に記事になるネタねーべかと,探していると,
そういえば昔,「アブシジン酸(ABA)が人体に有毒!」というネタがあったのを思い出したので,
今回はそのお話。
一度「アブシジン酸」を調べていただければ分かるかと思いますが,
筆者のブラウザ(Google chrome),検索エンジン(Google)環境では上から順に,
「アブシジン酸-wikipedia」
「現代病の根幹を成す、“アブシジン酸”の恐怖 - 糖尿病治療」
「玄米のアブシジン酸とは?フィチン酸とは?危険なの?」
「アブシジン酸応答機構 の解析 | 環境応答機構研究グループ」
「健康に良いはずの玄米食の落とし穴:日経ウーマンオンライン」
「アブシシン酸とは - コトバンク」
「「発芽毒」玄米や種物(チアシード)などを食べる時の注意点!」
「アブシジン酸の働き、そして毒性はあるのか? - saitodev.co」
「玄米の毒(アブシジン酸)を無毒化する方法」
「植物ホルモン」
と,ABA「俺が一体何をしたって言うんだ!!」といったラインナップです。
他の植物ホルモン(オーキシン,エチレン,ジベレリン,etc...)で調べてみると,
結果は学術的なものが多いのに対して,この仕打ちです。
渦中のABAが何故こんな
玄米に含まれるABAが,「ミトコンドリアに対して毒性がある!」ということらしいです。
いろいろなサイトを見ていると,上記のことを言い始めたと思われるのは,
医学博士のN氏だそうです。
ただ,氏の発言を記した一次ソースを探し出すことが出来なかったので,
何故,上記の主張をなされたかは想像するしかありません。
どうも,主張の根拠には2007年にPNASに報告された論文の様です。
それが,これ
「Bruzzone S, Moreschi I, Usai C, Guida L, Damonte G, Salis A, Scarfi S, Millo E, Flora AD, Zocchi E: Abscisic acid is an endogenous cytoline in human granulocytes with cyclic ADP-ribose as second messenger: Proc Natl Acad Sci USA 2007, 104, 5759-5764.」
いろいろなサイトがこの論文を根拠に
「アブシジン酸が活性酸素を増大させミトコンドリアを傷つける」→「ミトコンドリア毒だ!」
という理論を展開しているみたいです。
まず,大前提として論文の筆者らは,「論文中でミトコンドリア毒」などという意味不明な単語は使用していません。
上記の論文のタイトルをコピペして,出てきた論文のAbstractを読めば大体内容は分かるかと思います。
(Abstractだけなら読めるよね・・・・?)
かいつまんでAbstractを訳すと
・ABAは高等植物における基本的な生理的応答(ストレスや種子休眠,気孔閉鎖等)に関与する植物ホルモンである。
・我々は,ABAが,Gタンパク質/受容体を起点としたシグナル伝達経路を介してカルシウムイオンの増加を引き起こすことにより,ヒト顆粒球のいくつかの活性(食作用,活性酸素種および一酸化窒素の産生)を誘引することを示した。
・この発見は,植物からヒトへのホルモンおよびシグナル伝達経路が保存されていることを示す興味深い一例であり,顆粒球活性化の分子メカニズムについての知見を提供し,新しい抗炎症薬の開発につながる。
といった感じです。
おそらくですが,カルシウムイオンの増加による活性酸素種の産生という点から,
上記のミトコンドリア毒という説が出てきたものと考えられます。
確かに,活性酸素種はその反応性ゆえ種々の器官にダメージを与えます。
ただ,ほとんどの試験で効果が確認された濃度が20 μMと非常に高濃度であることから,
この効果が,玄米に含まれている程度のABAで引き起こされるか甚だ疑問です。
実際に,茶碗一杯に含まれるABA量を計算してみましょう。
玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。
品種にもよりますがイネにおけるABA内生量は80 ng/g F.W.であるので
茶碗一杯のABA内生量は16 μgとなります。
ABAの分子量は264.3なので,茶碗中に含まれるABAは約60 nmolとなります。
人間の血液が成人男性60 kgで4.5 Lだとすると,体内のABA濃度は15 nMとなります。
※内生量のF.W.と炊飯した玄米量を結びつけるのは無理があるかなぁ…
かなり荒っぽく計算しても,摂取するABAはかなり低濃度であることが分かります。
また,ABAが蓄積されるといった知見もまだありませんし,
ABAはカルボキシ基を持つため水溶性が高く,体外に容易に排出されると予想されます。
そのため,体内で濃縮という可能性もかなり低いと考えられます。
以上の簡単な計算から分かるように,
「摂取したABAが活性酸素種を増加させ,ミトコンドリアを傷つける」といった可能性はかなり無理があるかと思います。
そもそも,ABAが活性酸素種を増加させるからミトコンドリア毒であるという仮説は,論理が何段階も飛躍しており,
まだまだ,この説については突っ込みどころがあるんですけども,今日はここまでにしておきます。
文字ばかりでなかなか見辛いな…。レイアウトに頭を使おうという反省でした。
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コメント
2018-12-13 14:03 stimcle URL 編集
管理人のみ閲覧できます
2019-04-06 21:46 編集
お米とご飯の量
「玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。」
以下の計算と数字は、素人には全く理解不能ですが (笑)
なんとなく、大した量にならない、という趣旨だけはわかった気になっております。
ところで、
「玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。」ですが、お米に換算すると、90g前後です。
もっと、ご飯一膳のアブシジン酸(ABA)は少なくなりませんでしょうか?
2019-11-19 23:45 RIO URL 編集
Re: お米とご飯の量
>
> 「玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。」
> 以下の計算と数字は、素人には全く理解不能ですが (笑)
> なんとなく、大した量にならない、という趣旨だけはわかった気になっております。
>
> ところで、
> 「玄米を炊飯したとして茶碗一杯に200 gとします。」ですが、お米に換算すると、90g前後です。
> もっと、ご飯一膳のアブシジン酸(ABA)は少なくなりませんでしょうか?
お水で重量が増えるのを考慮してませんでした笑
未吸水のカラカラの玄米200 gの値で計算してました(どんな大食漢…)。
ですので、おっしゃる通りご飯一膳の量はもっと少なくなりますね。
2019-11-20 20:35 SF5 URL 編集